きみに想う 〜赤の民族〜
「それとね…今日…」

「なぁに?」

「ううん、なんでもない」

珠留から離れ

部屋へと戻った雫

珠留にも10年前に出会った海斗の話しはしてない

思い出として今も胸に残る気持ち

この10年は思い出さないようにしていた

なのに

自分より先に貴族にキレた黒髪の男

まさかと思った

背も高くなり

逞しく男らしいその体格

優しかった雰囲気とも違う大人の男

あの頃の姿とはまるで違うのに

纏う匂いが雫の心が海斗であると告げていた

警告を無視して

冷静を装い、呼ばれた名前に

答えることが出来ないまま、逃げた

なぜわたしだと海斗は気付いたのだろう

雫と呼ぶ海斗の声が耳から離れなかった
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