きみに想う 〜赤の民族〜
海斗が優しく雫を包むように抱き

「離れたくないなんて言っていいの?」

「正直な自分の気持ちを言っただけよ」

海斗のさっきまでとは違う

男の部分が見え隠れする台詞に、雫は戸惑い

海斗の顔が見えないことで恥ずかしさを

誤魔化すようにしていた

「俺は雫が好きだ」

抱きしめた身体を離し

雫と視線を合わせると

雫の瞳がしっかりと自分の姿を映している

視線を捕らえたまま海斗は続ける

「あの小さな何も出来ない俺を救ってくれた小さな赤い女の子を忘れたことは一度もなかった
家族より大切な気持ちを教えてくれたのは、雫だ」

見つめ合ったまま

一瞬の沈黙が2人の間に流れる

「本当は心の何処かで気付いてたの…
忘れようとしても忘れられないし、姉のような珠留にでさえ言えなかったのは、否定されるのが怖かったから。城の女官たちから海斗の話しを聞くたびにモヤっとした気持ちになったこと
気持ちに蓋をして閉じ込めていたんだと思う」

雫は強い大きな瞳で海斗に告げる

「わたしも海斗が好き」

海斗の唇が雫の唇に重なる

唇が離れると

恥ずかしそうに視線を外す雫の仕草が

可愛すぎて

また唇を重ねると

雫から胸に拳で殴られる海斗

甘い幸せな夜が静かな風とともにあった



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