恋する僕らのひみつ。


あたしは、いまでも鮮明に覚えてるよ。



あの時……。



あたしのお父さんが病気で死んじゃったとき、あたしはまだ小学生で。



すごくすごく悲しくて、本当につらかったけど。



お父さんを失って憔悴しきったお母さんの前で、あたしは悲しい顔を見せたくなかった。



あたしが泣いたら、お母さんはもっとつらくなるんじゃないかって。



幼い子供なりに、感じてたんだ。



無理して笑顔を作って

大丈夫なフリをして



悲しむお母さんを、必死に励ましてた。



いくらお母さんが泣いても、取り乱しても。



あたしだけは絶対に。



お母さんの前では、絶対に泣かないように。



歯を喰いしばって、必死に涙を堪えてた。



お父さんが死んでから数日後。



お母さんは葬儀の準備に追われていて、あたしは湊の家に泊まることになって。



湊の部屋のベッドで、湊とあたしは並んで寝っ転がっていた。



あの夜……



あたしはもう限界だったんだと思う。



張りつめていた糸がプツンと切れたみたいに、



必死に抑えこんでいた感情が、溢れだした。



あの夜もあたしは

こうして、いまみたいに。



湊の背中にしがみついて。



湊の背中で、泣いてたんだ……。
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