恋する僕らのひみつ。
……行かないで、頼むから。
もうどこにも行かずに、俺のそばにいてくれよ……。
そんなことを言う資格さえない。
だからせめて、時間が止まればいいなんて。
バカな俺は、彼女を抱きしめながら願った。
「あたしを、好きになってくれてありがと……。幸せな思い出をいっぱいいっぱい……ありがとっ」
俺の腕の中で、彼女は穏やかな声で言った。
「いまになって思い出すのはもう、一緒に夢を追いかけてた頃の楽しい思い出ばっかりなの」
彼女のその言葉に、
過去を引きずったまま動けずにいた俺と、
必死に前だけを向いて歩き続けてきた彼女との時間は、
すれちがったまま、決して重なることはないのだと気づかされた。
彼女はもう、俺を過去にして、思い出にして。
記憶の中に閉じ込めたんだ。
そして、彼女は言った。
「この箱が、いまのあたしにできる快への、最後の――――」
発車のベルの音が鳴り響き、
彼女は俺から離れて、電車に乗り込んだ。