鬼課長の憂鬱
 土手を登り切りると、俺は車をわざと路の右側に寄せて停めた。


「ちょっと寄って行こう? ドアを開ける時、車に気を付けてな?」

「うん。琢磨さんも、足元に気を付けて? 私のためにごめんなさい」

「あ、ああ」


 さり気なく車を右に付けたつもりだったが、頭のいい詩織にはその意図が見え見えだったらしい。

 俺はダウンのジャンパーを掴んで車のドアを開け、足元に注意しながら車から降りた。俺でさえ、少しのへまですっころびかねない程、地面の傾斜がきつかった。


 土手の上に詩織と並んで立ち、河原というか河川敷というかを俺達は見下ろした。中学の時は、二人とも何も気にせず草の上に座ったものだが、その草は枯れているし、ズボンのケツが汚れそうで座る気にはなれない。

 あの頃は果てしなく広大に思えた河川敷だったが、今見るとそれほどでもなく、土手との高低差もあの頃ほどには感じない。それでも十分、俺には懐かしく、


「懐かしいな?」


 と、興奮気味に言ったのだが、


「え、ええ……」


 詩織の声は意外にも冷静に聞こえ、少なくても俺みたいに興奮はしてなさそうだ。この後の事でまだ悩んでいるのだろうか……


「あれ? この辺りだと思ったけどなあ」


 俺はさっきからあるものを探し、右や左を見渡したが、一向にそれは見つからなかった。確かこの辺りだったと思うのだが……


「あの公園はもう無いんです」

「え?」


 確かに俺は公園を探していた。かつて詩織や小島達が小2の頃に遊んでいた公園を。

 しかし詩織は、よくそれが解ったな。というか、なんで公園が無くなってるって事、詩織が知ってるんだ?

< 102 / 110 >

この作品をシェア

pagetop