鬼課長の憂鬱
 そうだったのか。だから詩織は父親に会いに行くのを嫌がっていたのか。それを俺が半ば強引に連れて来たわけだが、詩織には酷だったんだな。それにしても、実の娘を嫌う父親っているんだろうか。俺は早くに父親を亡くした事もあり、今一つ理解出来ないけどな。


「詩織、やっぱり行くのはやめるか?」

「え?」

「そんな事情を知らなかったとは言え、ちょっと無責任だったよな、俺。ごめんな?」

「そんな事ないですよ。私、琢磨さんに言われて感謝してるんです。背中を押してもらえたと思ってるんです。勇気が出ない、意気地なしの私の背中を……」

「詩織?」

「私、父に会います。例え嫌われていても、大きくなった姿を見てもらって、琢磨さんとの結婚を報告したいんです。式に来てもらえないとしても。今それをしないと、後できっと後悔すると思うから……」

「そうか。じゃあ、行くか。どんな事になっても、おまえには俺がいるって事、忘れないでほしい。俺はいつだっておまえの味方だし、お前を全力で守るから。な?」


 そう言って、俺は詩織の肩を持つ手に力を入れ、詩織の体をグイッと引き寄せた。


「うん。ありがとう」


 俺は再び車を走らせ、土手を降りると詩織が育った家へ向かってハンドルを切った。どうか詩織が、これ以上辛い目に遭いませんようにと、心の中で祈りながら……

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