鬼課長の憂鬱
風変わりな新人
 俺は今、急な呼び出しを受け、部長室のソファに部長と向かい合って座っている。


「速水君。君も障害者雇用促進法というのは知ってるだろうな?」

「ええ、一応は」


 よくは知らないが、確か企業は一定の割合で障害者を雇用しなければいけないという、そういう法律だと思う。うちの会社ももちろん例外ではなく、現に社内で障害のある社員を見かける事がある。


「うむ。それでだ、うちの部で一人採用する事になってだな、君の課に配属する事になったんだよ」

「はあ」

「なんだ、気乗りしないか?」

「いえ、そんな事はありません」


 なんだよ。俺はただ「はあ」って返事しただけなのに、なんでそれが気乗りしない事になるんだ? 気乗りしないのは、自分じゃないのか?


「わかるよ。しかし法律には逆らえんからな」


 部長のやつ、違うって言ってるのに勝手に決め付けやがった。まったく、嫌な野郎だ。


「これがその子の履歴書だ」


 “その子”?

 ああ、女か。部長から受け取った履歴書の写真を見たら、黒髪が印象的な大人しそうな女の子だった。年令はというと……32か。女の子って言える歳じゃないな。おそらく何年も前の写真なんだろう。


「下肢……何とかという障害で、右だったか左だったか忘れたが、片方の膝が曲がらない病気なんだそうだ。つまり歩くのが不自由なんだが、うちの仕事にはあまり支障はないだろう。
いや待てよ。顧客の会社に出向く時に困るか。うん、困るなあ」

「そうでもないでしょう。営業のように歩き回るわけじゃなし、時々ならタクシーを使ってもたかが知れてます」

「そ、そうか」


 部長のくだらない話はさておき、履歴書の学歴を見ると、まずまずのレベルの女子大を出ており、次に職歴を見ると……なんだ、これは。

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