鬼課長の憂鬱
 週が明けた月曜。俺が出社すると、既に高宮は出社していた。もうあのはっきり言えばダサいリクルートスーツではなく、ネルか何かのシャツにスリムなパンツという、ごくシンプルな服装だった。

 金曜の高宮は、あのスーツのせいかはわからないが、二十歳そこそこに見えたのだが、今朝の高宮はもう少し上に見える。それでも25、6といったところだが。

 ああ、そうか。野田の見立てが正しかったわけだ。さすがだな。


 高宮は俺に気付くと、すぐにこっちへやって来た。と言っても、もちろんゆっくりとだが。

 高宮は真っ赤な靴を履いていて、他が地味だけに少し浮いて見えた。そう言えば俺は、昔から赤い靴にすぐ目が行く癖がある。なぜかは知らないが。


「おはようございます。金曜はすみませんでした」

「ああ、おはよう。風邪は治ったようだね?」


 俺は高宮が元気な事にホッとしながら、少し屈んで彼女の耳元に顔を寄せた。そして、


「金曜は熱が出た事になってるからな?」


 と小声で言うと、今度は高宮が俺の耳元に口を寄せ、


「恵子さんから聞きました」


 と囁き、俺に微笑んだ。

 俺はそのどアップの、しかもめちゃくちゃ可愛い笑顔と、シャンプーかリンスかボディソープか知らないが、彼女から漂う甘い香りに、たちまち目眩を起こしそうだった。


 朝からこんな調子で、夜まで持つんだろうか。そんな事を、本気で心配する俺なのだった。

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