鬼課長の憂鬱
森さんが運ぶと言ってくれたがそれは断り、俺は2つの席を何往復かしてPCと筆記用具や名刺入れなど、当面必要と思われる最小限の荷物を空席の方へ運んだ。その間、高宮は机の埃を払ったり、筆記用具をしまうなどして手伝ってくれた。
初めての共同作業、なんてな。
一通り運び終わり、誰にともなく「よろしくな?」と言うと、高宮だけが「よろしくお願いします!」と元気な声で言い、他の連中は低い声で「よろしくです」とか言っていた。
連中にとって俺は、さしづめ“招かれざる客”といったところだろう。どう思われても構わないが。
「高宮」
「はい!」
「おまえ宛にメールを送るから、待っててくれ」
「はい!」
「意味不明かもしれないが、後で説明するから」
「わかりました」
俺はPCを起動してメーラーを開き、高宮宛のメールを書き始めた。
高宮に教える予定のあれやこれやを、高宮に伝えるためだ。具体的には、共用のフォルダや文書、各システム毎の仕様書などのファイルへのリンク。あるいは各種WebシステムのURLなどなど。それらを思いつくままに順不同でメール本文に書いていった。
ちなみに、うちの部署には新人用のマニュアルというものはない。作ろうと思えば作れなくもないが、ルーティンの業務はないため作りにくいのだ。基本的なルールはあるが、業務そのものは個人の判断に委ねられ、やり方も人それぞれ。そもそも業務は多様で日々変化していくから、それをマニュアル化するのには無理がある、と俺は思う。
ここでは経験やスキルが物を言い、更に柔軟性や判断力が要求され、つまりは個人の資質が問われる。同僚は仲間ではあるが、ライバルでもあり、水面下でしのぎを削りあっている。そんなバラバラな連中を、課長である俺は組織としてまとめなくてはいけないから、実に面倒な役回りだ。
高宮へのメールは、ある程度書いては送り、またある程度書いて送りを繰り返し、かれこれ5通ほど書いて終わった。そしておもむろに立って、高宮の背後に回った。
高宮は、背筋をピンと伸ばして座っており、マウスとキーを物凄い速さで操作していた。何をしているのかと思って彼女のPCを覗くと、俺からのメールを表示しつつ、EXCELのセルにハイパーリンクを次々と貼り付けていた。しかも、カテゴリー別にシートを分けていた。
こいつ、意外に出来るな。
と俺は思った。事実高宮は、俺が思ったよりも遥かに優秀だった。
初めての共同作業、なんてな。
一通り運び終わり、誰にともなく「よろしくな?」と言うと、高宮だけが「よろしくお願いします!」と元気な声で言い、他の連中は低い声で「よろしくです」とか言っていた。
連中にとって俺は、さしづめ“招かれざる客”といったところだろう。どう思われても構わないが。
「高宮」
「はい!」
「おまえ宛にメールを送るから、待っててくれ」
「はい!」
「意味不明かもしれないが、後で説明するから」
「わかりました」
俺はPCを起動してメーラーを開き、高宮宛のメールを書き始めた。
高宮に教える予定のあれやこれやを、高宮に伝えるためだ。具体的には、共用のフォルダや文書、各システム毎の仕様書などのファイルへのリンク。あるいは各種WebシステムのURLなどなど。それらを思いつくままに順不同でメール本文に書いていった。
ちなみに、うちの部署には新人用のマニュアルというものはない。作ろうと思えば作れなくもないが、ルーティンの業務はないため作りにくいのだ。基本的なルールはあるが、業務そのものは個人の判断に委ねられ、やり方も人それぞれ。そもそも業務は多様で日々変化していくから、それをマニュアル化するのには無理がある、と俺は思う。
ここでは経験やスキルが物を言い、更に柔軟性や判断力が要求され、つまりは個人の資質が問われる。同僚は仲間ではあるが、ライバルでもあり、水面下でしのぎを削りあっている。そんなバラバラな連中を、課長である俺は組織としてまとめなくてはいけないから、実に面倒な役回りだ。
高宮へのメールは、ある程度書いては送り、またある程度書いて送りを繰り返し、かれこれ5通ほど書いて終わった。そしておもむろに立って、高宮の背後に回った。
高宮は、背筋をピンと伸ばして座っており、マウスとキーを物凄い速さで操作していた。何をしているのかと思って彼女のPCを覗くと、俺からのメールを表示しつつ、EXCELのセルにハイパーリンクを次々と貼り付けていた。しかも、カテゴリー別にシートを分けていた。
こいつ、意外に出来るな。
と俺は思った。事実高宮は、俺が思ったよりも遥かに優秀だった。