鬼課長の憂鬱
 さて、どうしようかな。

 俺は駅を出たところで、ちょっと困った。俺のアパートまで徒歩で約15分。と言っても俺は歩くのが速い方で、高宮の足では倍までは行かないかもだが、相当時間が掛かるのは間違いない。高宮にはきつい距離だと思うし。

 うん、やっぱりそうしよう。俺はタクシー乗り場へ向かうことにした。


「タクシーで帰るんですか?」

「ああ、そうだけど?」

「お金がもったいないですよ。いつもじゃないですよね。普通はどうしてるんですか?」


 高宮のやつ、痛いところを突いてくるなあ。


「それは……バスだな。路線バス。でも今夜は遅いから、タクシーで帰ろう?」


 それは嘘だった。俺は滅多にバスには乗らない。雨や雪が酷い日くらいで、それも朝だけだ。帰りにバスに乗った事は一度もない。大抵は歩きで、ごくたまにタクシーに乗る。飲み過ぎてフラフラの時とか、雨や雪が酷い時だけ。


「まだバスは走ってるみたいですよ。バスで帰りましょうよ?」

「いいの、タクシーで。俺は夜10時を過ぎたら、タクシーに乗る主義なんだよ」


 それも嘘だ。バスに乗ろうにも、どの乗り場からどんな経路のバスに乗っていいのか分からないのだ。朝はバス停に立ち、来たバスに乗れば勝手に駅まで運んでくれるが、逆に駅からだと、いろんな乗り場や経路があるはずで、乗った事のない俺にはさっぱり分からないのだ。


「今夜はもう10時を……ほら、過ぎてるだろ? だからタクシーでいいんだ」


 腕時計を見たら、ギリギリだが10時を過ぎていて助かった。あぶない、あぶない。

 納得してなさそうな高宮の背中を押し、俺達はタクシーに乗り込んだのだった。


 後で、バスの乗り方を調べておかないとだな。

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