鬼課長の憂鬱
 俺達はローテーブルを挟んで向かい合わせに座っている。俺は普通に胡坐だが、詩織は右足を投げ出すような形で座っていて、ちょっときつそうだ。

 やっぱりキッチンのテーブルを使えるようにしておこう。次に詩織が来るまでに。


「朝ご飯を作ろうと思ったけど、何も食材がなかった」


 詩織にしては珍しく、低めの声だ。怒ってるのかな。

 自慢じゃないが、確かにここには食材と呼べる物は一切ない。全く自炊してないからだ。かつては、してた時期もあったのだが……


「ごめん」

「朝ご飯は食べてないんですか?」


 昼はもちろん会社で食べ、夜は食べて帰るかコンビニで何か買うかしてるが、このところ行動を共にしている詩織は、それを知ってるはずだ。だから朝めしの事を聞いたのだと思う。


「軽く食べてるよ。パンとか。あ、確か食パンがあるよ。マーガリンもあるし。俺、トースト作るわ」


 そう言って俺は立ち上がろうとしたのだが……


「いいです。後でお買い物しますから」

「買い物って、朝めしぐらいで大げさじゃないか?」

「朝ご飯って、ちゃんと食べないと健康に良くないんですよ? コーヒーとパンだけじゃダメです。野菜やタンパク質も摂らないと……」

「そうなんだけど、面倒臭くてなあ……」

「決めました」

「え? 何を?」

「私、一緒に住みます」

「……えっ?」

「お願いします。私をここに置いてください」


 思わぬ展開に、俺は言葉を失ってしまうのだった……

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