鬼課長の憂鬱
 定時になると、さすがにクリスマスイブという事で、みんな早々に帰って行った。もちろん、詩織も……


「お先に失礼します」


 と言って俺にお辞儀をした詩織は、全く元気がなかった。とてもこれから友人と会食する人とは思えない。やはり体の調子が良くないのか、あるいは俺に申し訳ないと思っているからか、その両方か……

 詩織は元気がないどころか、泣きそうにさえ俺には見えた。しかし俺は、あえて笑みを顔に貼り付け、「お疲れさま」と言って詩織を送り出した。


 小島も上がり、玉田も鞄を持って立ち上がった。


「今日はデートか?」

「それがですね、今夜は合コンなんですよ。カレカノがいない者同士で。あ、課長もなんでしたら……」

「バカ言うな。俺だって……」

「え?」

「何でもない」

「ですよね? じゃ、お先です!」

「お疲れ」


 何が“ですよね?”だ。バカにしやがって……

 今に見てろってんだ。アッと驚く発表をしてやるから。


 俺もそろそろ上がろうと思っていたら、ポケットの中のスマホが震えた。誰かからメールか何かが来たらしい。

 詩織か、もしくは野田かなと思ってスマホを取り出したのだが……


 なんと、小島からだった。小島からメールが来ていた。2課では、緊急連絡用に全員の携帯番号とメールアドレスが公開されているから、小島からメールが来ても不思議ではない。過去にも、仕事の事で何度かメールのやり取りをした事がある。

 だが、このタイミングでいったいどんな内容なのか。俺は訝しがりながらも、小島からのメールを開いた。すると、こう書いてあった。


『課長のオモチャを一晩借ります。安い口止め料だと思ってください。では、メリークリスマス』

< 93 / 110 >

この作品をシェア

pagetop