【完】『ふりさけみれば』
プロローグ

一つの光景がある。

煌めいた海の見える、小高い、青葉の豊かな公園がある。

そこには。

ブランコや滑り台など、ありふれた小さな遊具がある。

広場には。

うら若い母親と、頑も是もない幼子が、穏やかな陽を浴びながら遊ぶ。

ときおり、風が渡る。

端的にいえば。

日常ののどかな風景である。

見上げると。

少し霞がかった、しかしながらどこまでも窿(たか)く、丸い空が曠(ひろ)がっている。

確かに。

どこにでもありそうな景色、ではあろう。

実に。

何気ない平和なひとときであり、仮に傍目に眺めていても微笑ましい。

が。

この光景を。

「なぜそうなったか」

という来歴を聞いてから眺めると、また違った風に、その目に映るはずである。

そういった。

どこにでもありがちな人々の、どこにでもありがちな話ではある。

だが。

それは翻すと。

誰もがその立場になり得ることでもある。

これは。

そうした立場になった人々の譚(はなし)である。



< 1 / 323 >

この作品をシェア

pagetop