【完】『ふりさけみれば』
プロローグ
一つの光景がある。
煌めいた海の見える、小高い、青葉の豊かな公園がある。
そこには。
ブランコや滑り台など、ありふれた小さな遊具がある。
広場には。
うら若い母親と、頑も是もない幼子が、穏やかな陽を浴びながら遊ぶ。
ときおり、風が渡る。
端的にいえば。
日常ののどかな風景である。
見上げると。
少し霞がかった、しかしながらどこまでも窿(たか)く、丸い空が曠(ひろ)がっている。
確かに。
どこにでもありそうな景色、ではあろう。
実に。
何気ない平和なひとときであり、仮に傍目に眺めていても微笑ましい。
が。
この光景を。
「なぜそうなったか」
という来歴を聞いてから眺めると、また違った風に、その目に映るはずである。
そういった。
どこにでもありがちな人々の、どこにでもありがちな話ではある。
だが。
それは翻すと。
誰もがその立場になり得ることでもある。
これは。
そうした立場になった人々の譚(はなし)である。
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