【完】『ふりさけみれば』
葵祭が過ぎた頃。
一慶はマイカーというべき黄色のミニバイクで大原の彩のカフェに乗り付けて来た。
「ひさびさやねぇ」
薫風の頃だというのに、客足は少ない。
「連休まではお客さん多かったんだけどねぇ」
彩は苦笑いしながら、一慶が好きだと以前エッセイに書いていたチャイを出した。
一口つけた。
「これ、うまいな」
一慶の腰かけた椅子の脇には、枝振りの良い古い樹がある。
「これ、杏か?」
「よく分からないけど、力は杏だっていってた」
「…杏ならジャム作れるんちゃう?」
「そうなんだ?」
彩はハッとした顔になって、
「キャンベルさんにジャム作り習おうかなぁ」
「やってみ」
一慶はクッキーをつまんだ。