【完】『ふりさけみれば』
しばらくして。
西陣の一慶のもとを、みなみが珍しく訪ねてきた。
「久しぶり」
いつもの笑顔に見えた。
が。
「何か目がしんどそうやけど、どないしたんや?」
みなみのちょっとした異変を、一慶は見抜いていたようである。
「カズさんあのね」
そうやって笑顔を作ってはいたが、みなみの目には涙が浮かんでいる。
「…!」
背の高いみなみが崩れ、膝をつくと一慶の躰(からだ)に顔をうずめ、気がつくとみなみは、しゃくりあげるように泣いていた。
一慶は黙って、その長いストレートの、恵まれた髪質をした黒髪を撫でた。