【完】『ふりさけみれば』

取り敢えず、と一慶は客間にみなみを通し、

「いきなりやからこんなんしかあれへんけど」

といいながら、出版社の吉岡編集者から贈られたばかりだという、きぬかけ道のバウムクーヘンを出した。

「…ありがと」

泣きべそをかいたみなみは、テレビでは見せない寂しげな、それでいて澄んだ眼差しをしていた。

「いきなりだらけでビックリやけど、一体全体何があったんや?」

無理もないであろう。

「急に来て、しかも泣いてごめん」

多少ながらみなみは落ち着いたようである。

「実はね…アナウンサーじゃなくなるかも知れないんだ」

「…えっ?」

一慶はよく事態が飲み込めないでいる。



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