【完】『ふりさけみれば』

着いた。

わずかに日が傾いたぐらいの昼下がりで、目印の杏の樹は、梢に実が色づき始めている。

彩が出てきた。

エンジンの音で気づいたのであろう。

「珍しいの連れて来たで」

という一慶の後には、ピンクのヘルメットを脱いだみなみが頭を軽く下げた。

みなみが降りた。

店へ彩と入って行く。

一慶はミニバイクを停めると、店の玄関前にあった縁台に寝転がって、陽射しを浴びたまま、ヘルメットを枕に横になった。

何を中で話したのかは一慶には分からない。

しかし。

気持ちよかったのか、夕方みなみに起こされるまで、一慶はぼんやりとウトウトしながら寝転がったままであったらしい。

(まぁ東京では不可能なことやろな)

驚くべきことに。

財布もミニバイクも、何の被害もなかった。

奇跡、という他ない。



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