【完】『ふりさけみれば』
第一弾は、局からすぐの場所にあたる増上寺のエリアである。
近場だけに、
「撮れ高足りるかなぁ」
とカメラ担当が心配していたが、杞憂であった。
「東京ってこんなに坂道あるんだ…何か函館みたい」
みなみはつぶやいた。
そういえば。
実家は函館でも坂の多い谷地頭で、五稜郭に近い杉並町の女子高まで、雪のない時期などは自転車で通っていたのである。
雪の時期は路面電車で通学していたが、乗り慣れないみなみには旅のようであったらしい。
それはいい。
芝の坂道を歩き、夕暮れの東京タワーを見上げ、飯倉の定食屋で食べ、だいたい二時間ほどの撮影で三十分の番組に使えそうな素材は撮れた。
そうして。
初めての単独のレギュラー番組の撮影が終わったのである。