【完】『ふりさけみれば』
そこは本題ではないから置く。
ともあれ。
どうやら互いに互いを意識しているようではあるが、
──いったい、どないせぇっちゅうねん。
という戸惑いが一慶にあるのも、また偽らざるところであった。
別に一慶は、生まれてこのかた、恋をしたことがない訳ではない。
しかし。
ブランクがかなりあったようで、
「恋愛なんぞ、どうしたらえぇか忘れてもうたがな」
などと煙に巻いて笑わせるのが話のサゲで、その実どうなのか、肝心な折所をいわなかったりする。
要は。
「よく知らない人には本音をまず明かさない人」
なのである。
みなみもそこは知っている。
「カズさんはあんまり本心をいわない人」
と、最初の頃の手紙にもある。
だが。
それは。
のちにみなみなりに違う解釈をしていたようで、
「だって誰にでもいいたくないことはあるでしょ?」
と梨沙に答えた台詞がそのようであった。