【完】『ふりさけみれば』
そうしたなか。
みなみは大好きであった、多摩川の流れが見える六郷の部屋を引き払い、大阪へ引っ越してきた。
すでに秋である。
力の常連の不動産屋が見つけた十三のマンションが、新しいみなみの拠点となった。
「初めての関西暮らしやからね」
そういうと力が指揮を取り、荷物は力や一慶が手伝って早々と片付いた。
夕方。
三人で談笑しながら梱包を解いていたが、力の携帯電話が鳴った。
「はい関藤です」
相手は常連の一人であったようで、サンダルを突っ掛け外に出た。
二人きりである。
「…あの」
みなみと一慶は同時に向いた。
「…あ、カズさんから」
「そんなん、みなみちゃんからでえぇがな」
「…じゃあ私から」
みなみは大きく息をついた。
「実は私、カズさ…」
みなみが何かいいかけたところで、力が戻ってきた。
「今度みなみちゃんの引っ越し祝いやらなあかんのやけど、どないする?」
「蛸薬師のイタリアンとかどや?」
力はいった。
「あ、実は私…ニンニクが苦手で」
「ドラキュラか」
一慶の突っ込みは早い。
「ほんならプラン考えとくわ」
こういう場面の力は驚くほど淡泊である。
いいかけた言葉は、この日は分からずじまいであった。