【完】『ふりさけみれば』
それは。
人の前であまりに剥き出しに、子供じみた偏食の嗜好を、いい歳をして口にするのも憚られるが、
──食べたくないものは、何が何でも食べたくない。
という矛盾から出た、一慶らしい折衷案のようでもあった。
とにかく。
一慶という人物は。
自己の定規をあてがい、世間をそれなりに測定しながら暮らしているような風があった。
そこは。
彩も不思議に感じていたようで、
「我が強いって訳ではないんだけど、これはこうでないとダメ、ってところはあるよね」
彩はみなみの様子から、
「みなみはカズさんのこと、どう思ってるの?」
はっきり訊いてみた。
「好きとかじゃないけど、楽しい人だなって」
「ふーん」
彩は息をついた。
「好きになるのは自由だけど…カズさん、昔ちょっと色々あったりしてるみたいだからさ」
そこは注意しなきゃダメだよ、と彩は釘を刺した。