【完】『ふりさけみれば』
平野神社。
知る人ぞ知る桜の名所で、花の時期には賑わいもある。
が。
今は桜は咲いていない。
それだけで。
境内に人は少なく、近所の幼稚園児が歓声をあげ、桜の樹の下を走り回っている。
みなみと一慶は先に参詣したあと、石段に腰を下ろした。
「すごく静かだね」
「桜がなければ平野神社やなしに、ただの神社や」
韻を踏んだようだが、みなみは気づかない。
「あのね…」
みなみは息を整えた。
「こないだの続きなんだけど」
「うん?」
一慶が顔を覗き込む。
「…!」
みなみは顔の近さに目を向いた。
「あー、ビックリした」
「驚かしてごめんな」
「うぅん、あのね…それで」
いいかけた言葉は一慶に遮られた。