【完】『ふりさけみれば』
このようにして。
みなみと一慶は十五歳も離れたカップルとなった。
だが。
この段階で。
実は誰も、まだ交際の開始を知らなかった。
彩すら知らない。
むろん。
力も、東京の恵里菜や梨沙も、誰も知らない。
「一応みなみは女子アナやったから、下手にバレたら騒ぎになる」
という一慶らしい配慮からであったらしい。
さらに。
一慶の深慮ぶりはデートの場所にも及んでおり、
「樹を隠すなら森や」
といい、清水寺や伏見稲荷といった、外国人の観光客に人気がある場所ばかりを選んで逢う。
これには、
──あれだけの深謀があるなら、軍部の参謀がつとまる。
と噂になったほどである。