【完】『ふりさけみれば』
それでいて。
「罪人でもないのに隠れる必要がどこにあるんや」
といい、変装めいたことはしないのである。
その頃。
一慶はみなみに、新京極の洋服屋で帽子を買ってくれてやったことがある。
「キャスケット」
というブリムの小さな、クラウンの膨らんだ、ハンティングキャップに似た帽子で、
「これなら、いちいち変装せんでもえぇ」
といい、一慶は古着屋で見つけたらしいニットのキャスケットを目深にかぶってみせた。
みなみが真似をしたのは、いうまでもない。