【完】『ふりさけみれば』
しばらく、過ぎた。
珍しく大原から彩が洛中に出てきたので、蛸薬師高倉の居酒屋で飲んでいると、
「もしかして…みなみ、彼氏できた?」
彩の切り出し方は鋭い。
アナウンサー時代、
──カミソリ五十嵐。
と周囲にいわれ、討論番組で当時の都知事すら怖れた勘の鋭さは、みなみの秘めた恋に対しても躊躇なく発揮された。
「うん、出来たよ」
この素直さが、みなみの強みであり美徳である。
しかし。
このあとの彩の言葉はみなみに突き刺さった。
「多分…みなみ、しあわせにはなれないと思う」
だってきっと相手カズさんでしょ?──彩の指摘は余りにも鋭い。
みなみは、一瞬息が止まりそうになった。
が、
「しあわせかどうかは私が決めるんで、心配しなくたって大丈夫ですよ」
この返答には、逆に彩が驚いた。
余りにも、それまでのみなみらしくない、意志のこもった返事であったからである。