【完】『ふりさけみれば』
年が改まった。
短編ばかりを書いていた一慶は、はじめての童話に取りかかり始めた。
「たまに何か書かんとなめられるから」
と笑っていたが、みなみが原動力になっていたのは、彩や力の目から見ても明らかであった。
仮題も、
『サイドカー』
と決まった。
どうやら。
当時よく聴いていたアーティストの曲に、
『サイドカー』
というのがあって、そこからタイトルだけ拝借したようであった。
いっぽう。
みなみも東京で四回で終わった番組の続編を関西で作りたかったようで、
「京都だと、どこを散歩したら面白いかな?」
と一慶に訊いて、
「あちこち番組で擦り倒しとるから、嵯峨とか嵐山はつまらんやろ?」
という見解から、衣笠がいいという話で、みなみはカメラを手に、後輩の音声のスタッフだけ連れ、自撮りで衣笠をぶらぶら歩いてみた。