【完】『ふりさけみれば』

ところが。

そうしてみなみの評価が上がると、急にいろんな仕事の依頼が舞い込んで来た。

すると。

「ごめんねカズ」

とみなみが謝らなければならないほど、ふたりきりの時間は少なくなってきたのである。

だが。

一慶は決まって、

「みなみが好きで選んだ仕事やろ? それで必要とされてるなら、どんどんやったったらえぇがな」

と答えた。

どうも底辺には、

「みなみのしあわせが、うちのしあわせや」

という一貫した気持ちが、一慶にはあったらしい。

そこがブレないから、

「みなみがえぇならそれでえぇ」

としかいわない。

ときに。

それは理解不能のようにも見られたようで、

「よく耐えられますね」

と吉岡編集者にいわれたこともあったが、

「あの子はな、きっと今まで好きなようにすることを抑圧されてきたんやないかな。ほんならうちとおる間だけでも」

好きにさしてあげるのが、男子の本懐や──と一慶はいった。



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