【完】『ふりさけみれば』
その頃から。
みなみと一慶は手紙のやりとりが増えてきた。
末尾に必ず、
「カズ大好き」
「愛するみなみへ」
と互いに書く。
それは。
離れた場にいる互いへのエールであり、ときに報告であり、また偽らざる気持ちを確かめあう大切な文物であった。
この。
手紙というのは、デジタルが全世界を支配する現代の世相にあっては、もっともアナログで、しかしもっとも体温のぬくもりを感じられるツールであろう。
原始的ですらある。
しかし。
みなみと一慶という、互いにタイプでなかったはずの両者の距離を縮めるには、これほど適合したツールも他にはなかった。
だから。
ちょっとしたことでは破局しなかったし、苦難や困難があったところで、互いにへっちゃらであったのかもしれない。