【完】『ふりさけみれば』

その頃から。

みなみと一慶は手紙のやりとりが増えてきた。

末尾に必ず、

「カズ大好き」

「愛するみなみへ」

と互いに書く。

それは。

離れた場にいる互いへのエールであり、ときに報告であり、また偽らざる気持ちを確かめあう大切な文物であった。

この。

手紙というのは、デジタルが全世界を支配する現代の世相にあっては、もっともアナログで、しかしもっとも体温のぬくもりを感じられるツールであろう。

原始的ですらある。

しかし。

みなみと一慶という、互いにタイプでなかったはずの両者の距離を縮めるには、これほど適合したツールも他にはなかった。

だから。

ちょっとしたことでは破局しなかったし、苦難や困難があったところで、互いにへっちゃらであったのかもしれない。



< 137 / 323 >

この作品をシェア

pagetop