【完】『ふりさけみれば』
一慶いわく。
「ここのは街の桜よりちょっと遅いんやけど、うまいこと満開に当たったらそりゃあ素晴らしいもんで」
といい、前に撮影したらしい携帯電話の写真を、みなみに見せた。
そこには。
全体に上品な薄い桜色の霞がかかったような、まるで東雲(しののめ)のような八分か九分に咲いた桜が撮されてある。
「みなみに見せたかったのはこれなんやけどなぁ」
ちょっと早かった、と一慶は少し苦い顔をした。
しかし。
まるで知らなかったみなみには、ここが現代なのか、あるいは南北朝のいにしえなのか、よく分からなくなってしまうような、時空の感覚を見失いそうになるような、何とも味わったことのない感懐をおぼえた。