【完】『ふりさけみれば』

その後も。

みなみが一慶を、みなみのお気に入りであったフランフランへ買い物に付き合わせたり、逆に一慶が丸善に原稿用紙を受け取りに行くのを、みなみに付き合ってもらったり…と、よく一緒に出かける。

中でも。

毎回必ず寄るのが木屋町の、前は仏具屋であったという京町家を改装したバルであった。

見かけは和風ながら、本格派のパエリアやアヒージョをスペイン帰りのシェフが作ってくれるという店で、

「ワインは苦手やねんけどなぁ」

という一慶も、ここのカリモーチョだけは好んで飲んだ。

ともに。

そんなに酒は強くなかったらしく、

「ぼちぼち行こか」

とほろ酔い気味で出ると、一慶の特に機嫌のよいときなどは、

「時雨を急ぐ紅葉狩、時雨を急ぐ紅葉狩」

などと能の謡を口ずさみながら、西陣の家に帰る。

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