【完】『ふりさけみれば』

が。

早くも着いてしまった。

西陣に、である。

ひとまず部屋の中には入れた。

冷蔵庫から水出しのコーヒーをみなみに出すと、

「これ、美味しいよね」

カズのコーヒーって渋味がないから飲みやすいんだよね、とみなみはマグカップを俗に萌袖(もえそで)と呼ばれる仕草をし、両手で持った。

「ね」

みなみは一慶を呼んだ。

「ん?」

「私ってさ…」

「…どないしたん?」

「いや、昔…色気ないっていわれたことあって」

そういえば。

番組の収録の最中にいわれたのは、居合わせていた一慶も知っている。

「色気…ね」

「やっぱりカズも女は色気あるほうが、セックスしやすいんでしょ?」

衝撃的なセリフに、思わず一慶は飲みかけたコーヒーをむせそうになった。




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