【完】『ふりさけみれば』

さすがに。

なくていいとはいえない。

が。

あればあったで困る場面も、あるにはあるであろう。

「うーん…色気ってのは、今まで考えたことないなぁ」

ああいうのは情緒やからね、と一慶は応えた。

なるだけ避けようとした。

しかし。

飲み終えたマグカップを戻そうとした間隙を衝くように、

「…たまには、そんな気分の日もあるんだよ、女の子だって」

とみなみは、一慶の背後から首に腕を回した。

「うちはそんなに、肉体的なもんは重要視してへんけどな」

といい向き直ると、

「…」

軽い、柔らかく優しいキスをした。

「私はいちゃいちゃするの嫌いじゃないけどさ」

みなみは一慶の目を見つめる。

黒目がちな、少し酔いの回ったような目をしているが、みなみの視線はどこまでも直線的で、一慶の動悸は高まりっ放しであった。

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