【完】『ふりさけみれば』

梅雨の晴れ間、京都では祇園祭が始まった。

一ヶ月に及ぶ長い祭で、稚児社参から夏越祓(なつごしのはらい)まで、さまざまな行事が展開してゆく。

その初日。

大阪のみなみは、上司に呼び出され、一枚の通知を渡された。

中を披(ひら)くと、

「東京本社アナウンス部へ異動を命ず」

とある。

約九ヶ月ぶりの、アナウンス部への復帰を意味していた。

ところが。

不思議なことに。

みなみは嬉しいという感情がわいてこなかった。

あれほど。

前にこだわっていたはずのアナウンサーに戻れる、というのにである。

ひとまず。

一通り仕事が終わり、翌日用のリードの取材の支度をして帰ると、西陣の一慶に電話を入れた。



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