【完】『ふりさけみれば』

一回、二回、三回。

四回目で出た。

「みなみ?」

相変わらずの一慶の、わずかに高めの声である。

「カズ、驚かないでね」

「何やいきなり」

「あのね、アナウンス部に戻る辞令が出たの」

「…よかったやん」

間があった。

が。

「よかったやん、みなみの夢やったもんな」

偽らざる気持ちで一慶が、喜んでくれているようなことは、声だけだが伝わってきた。

「でもさカズ、遠距離になっちゃうんだよ」

「そんなん、みなみが東京来て欲しいなら、西陣引き払ってでも行くで」

即座に決断したような、清々しさすら含むような声でいった。

「うちな、決めたことあんねん」

「ん?」

「今までかなりわがままやったし好きなように生きてきたけど、みなみのためにやったろかなって」

どこか。

覚悟めいた胆(きも)の据わった、それでいて重さを感じない、飄然とした調子でいった。



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