【完】『ふりさけみれば』
みなみは申し訳ない気持ちに覆われた。
「でも…」
「あのなぁみなみ、うちらはあの日、平野でキスした日からこういうことも織り込み済みやってんで」
毒食らわば皿までで一蓮托生や、というと豪快に電話口で笑った。
「でも…」
「うちがそうしたいんやから、そうさしてくれ。まぁみなみがイヤやいうたら、京都そのまま残るけど」
みなみは黙った。
だが。
しばらく沈思したあと、
「…そりゃ、いてくれると嬉しいけどさ」
ぼそっと漏らした。
「よっしゃ、ほな決まりやな」
「だけどねカズ」
「?」
「私は遠距離でも構わないよ」
「…えっ?」
「だってカズは仕事も友達も京都がベースでしょ?」
「せやで」
「私、カズにそこまで負担かけたくないし、来てまたこないだの爆弾発言みたいなことあったら、東京で暮らせなくなると思う」
いわれてみれば。
みなみの言分(いいぶん)に理がある。
「…まぁそこは、ちょっと改めて決めるわ」
というと、辞令の日付やら新しい住み処の話題になって、電話を切った。