【完】『ふりさけみれば』
いよいよ引っ越しという夜、先に荷物を出していたみなみは、西陣の一慶の部屋に泊まった。
一慶の部屋は。
そのままである。
「まぁどうなるか分からんけど」
「うん」
窓からは月光が射す。
「一人より二人のほうが、何するにしてもえぇんとちゃうかなと思うんやけどなぁ」
「ごめんねわがままで」
みなみは謝った。
「まぁ女の子はわがまましてナンボやからね、気にせんでえぇよ」
「ありがと」
みなみから笑みがこぼれた。
「あのねカズ」
「?」
「…どうして、私のこと好きになったの?」
「うーん、うまくいえるかどうかは分からんけど」
と前置きをし、
「たまにみなみが素になるときがあんねんけど、そのときのみなみの目が澄んでてやね」
照れた様子でいった。
「あんな澄んだ目の女の子に会うたんは、はじめてやったな」
「目、かぁ」
「みなみは?」
「私は完全に、カズが優しいからかな」
互いに寄り添って月を見上げた。
途端に。
恥ずかしがるように雲が、月を隠した。
「ま、逢いたくなったら、最初の頃みたいに休みに新幹線で来たらえぇがな」
「…だよね」
みなみはクスクスと笑って一慶の肩にもたれかかった。