【完】『ふりさけみれば』
だが。
恵里菜の心配はそこではない。
「ただねぇ、みなみだって言葉は悪いけど、兵藤先生って爆弾が隠れてるから、そこがバレたらまずいよね」
いわれてみれば。
確かに恵里菜の話す、その通りであろう。
だが。
「でも大丈夫な気もするんだよね」
だってあの兵藤先生だもん、と恵里菜はいう。
「何で?」
「あの人なら、仮にバレたって何とかなりそうな気がして」
「そうかなぁ」
「そうだよ、きっと」
先生真面目だから、と恵里菜はいった。
「だから心配しないほうがいいと思う」
そういうと。
「今度、みなみの転勤祝いしなきゃね」
恵里菜は原稿を手にすると椅子を立った。
その後ろ姿を見ながら、
「…カズならどうするんだろ?」
少しだけみなみの気持ちの奥底に、恵里菜の発言は引っ掛かった。