【完】『ふりさけみれば』
つかつか、とパンプスの靴音を響かせて、みなみの前にまで歩み寄ってきた。
「みなみ先輩」
次の瞬間。
美珈の右手が、みなみの頬をパシッと叩いた。
「みなみ先輩なんか、アナウンス部に戻って来なきゃ良かったのに」
とだけいうと、美珈はもと来た道を引き返し、有無を言わせる隙もない早さで会場を出た。
「…何だよ河原崎のやつ、偉そうに」
ドスのきいた低い声で批判がましく吐き捨てたのは、意外にも日頃おっとりとしているはずの梨沙であった。
「…ちょっと梨沙」
「私がチーフやってる番組、みんな河原崎を降板させて、二度と出られないようにしてやる!」
そこまで敵愾心を剥き出しにした梨沙を見たのは、みなみも恵里菜も初めてである。
「ねぇ梨沙、そんな怒らないで」
みなみはやんわりといった。
が。
それが逆にまずかったようで、
「みなみがそうやって優しくするから、付け上がるんだっての!」
梨沙の怒りはおさまらない。
「あの子、スポンサーに枕営業かけて番組取ってるんだよ」
これには会場もざわつき始めた。