【完】『ふりさけみれば』
それからほどなく。
アナウンス部に、スーツ姿の男が来た。
「橘みなみアナウンサーいらっしゃいますか?」
みなみに来客らしかった。
「お待たせしましたー」
ニュースで原稿を読み終え、何となくホッとしたみなみがあらわれた。
「橘みなみです」
頭を下げる。
名刺を見ると、写真週刊誌の名前が読めた。
記者らしい。
「こちらなんですが」
封筒から記者が出したのは、辻利で一慶とパフェを食べている写真である。
「こちらは?」
「作家の兵藤一慶先生です」
「ご関係は?」
みなみは、しばらく目を伏せて考え込んでいたが、
「恋人です。結婚を前提に交際してます」
と、ハッキリした口ぶりでいった。
これには記者が逆に、
「そこまでおっしゃって大丈夫なんですか?」
と目を丸くした。
「大丈夫です、二人でそう決めたことですから」
そこに座っていたのは前の、すぐ泣くみなみではない。
毅然と振る舞う、堂々たる雰囲気を漂わせたみなみであった。