【完】『ふりさけみれば』
恵里菜は顔を覗き込んだ。
みなみは顔を手で覆い、声とも何ともつかないような嗚咽を漏らして、長い髪で隠れた向こう側で、小さく声を殺すように泣いている。
恵里菜はそれ以上みなみに言葉をかけることができず、なすすべなく立ち尽くした。
そこへ。
何も知らないような顔をした、河原崎美珈が近づいてきた。
「みなみ先輩、どうしたんですか?」
敢えて空気を読まないような物言いをするのが、この後輩のえげつないところであろう。
「もしかして、恵里菜先輩が泣かしたとか?」
ぶりっ子めいた言い回しで、ことさら大きめの声でいい放った。
彼女が何かいおうとした。
咄嗟に。
恵里菜の手が飛んだ。
「河原崎ちゃん、いい加減にしなさい!」
滅多に怒鳴らない恵里菜が大声をあげたので、アナウンス部の空気が瞬時に凍り付いた。
「痛ーいっ!」
ビンタをされた河原崎美珈はわざとらしく倒れてみせて、
「これっていじめですよね」
そう言い捨て、駆け去るようにその場から消えた。