【完】『ふりさけみれば』
不思議なことに。
例の記事が出てから今まで、みなみは一慶にメールも電話も手紙も、一切コンタクトを取っていなかった。
彩から、
「西陣もリポーターが張り込んでるみたいらしい」
と聞いていたからである。
ただ。
みなみが大原にいるのだけは知っていたようで、
「まぁ落ち着いたら行くわ」
という言伝ても、みなみは聞いている。
そうしたなか。
何日か経た雨の日、みなみに一慶から手紙が届いた。
「…どうやって投函したんだろ?」
どうやら裏口から路地を抜け、少し離れたポストから出したらしい。
が。
いつもの見慣れた一慶の筆跡に、みなみは安心感をおぼえた。
開くと、
「海内に知己あれば、天涯は隣に比するがごとし」
と書いてある。
これは。
一慶がカレンダー用に揮毫した漢文で、みなみも字は見たことがあった。