【完】『ふりさけみれば』
ピンとこなかったみなみは国文科を出ていた彩に意味を尋ねてみると、
「これはねみなみ、重要なメッセージだよ」
といってから、
「どんなに遠く離れた場所にいても、互いによく分かり合っていれば、そばにいるのと同じ」
という解説をした。
そこで。
「そこまで気にしてくれてるんだ…」
あらためてみなみは、
(カズと付き合って良かった)
と、このときほど実感したことは他なかった。
のちに。
なぜわざわざ漢文で一慶が書いたかについては後日談があって、
「ああやって書いてあれば、仮に途中で他人に開封されても困らんやろ?」
と答えており、兵藤一慶という人物の深慮ぶりがこの一事だけを以てしても、はっきり分かる回答であろう。
ただ。
そんな一慶も張り込まれていてはさすがに参ったようで、
「この頃は店屋物を頼む日が増えた」
と雑感に記されてある。
半月ほど過ぎた明け方、海外で銃撃事件が起きてそちらにメディアの目線が行くようになって、ようやく一慶はそうした軟禁に近い暮らしから解放されたのだが、
「あれで秀吉に攻められた備中高松の殿様の気持ちがよく分かった」
といい、何日かで短編を仕上げて発表した。
転んでもただでは起きない、としかいいようがない。