【完】『ふりさけみれば』

7 朝


みなみの休職が明けて、東京へ戻った頃あたりから、変化が生じた。

一慶の口数が減ったのである。

それまでは。

いつも、どこでも、誰とでも、

「ほんで、そこでエーッってなってやね」

などと身振り手振りを交えて、笑わせるような内容の話をしては、常に気をそらさない一慶が、である。

異変に始めに気づいたのは編集者の吉岡はるかで、

「先生、どこか体調が良くないんですか?」

といって、内科の腕の良いのがいる…と六波羅蜜寺の裏の病院の電話番号を書き付けた附箋を渡したこともあったぐらいであった。

が。

「まぁちょっと疲れてるんとちゃうかな」

と受け流したり、

「最近きぬかけ道のバウムクーヘン屋行ってへんから、甘いもん食べたら治るやろ」

と煙に巻いたりしては、さらりと体を躱(かわ)してしまう。

力や彩は、吉岡とは接点がなく分からなかった。



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