【完】『ふりさけみれば』
無論。
東京にいるみなみが知るよすがもなく、そうするうちに一慶の雰囲気は少し変わっていった。
あれほど服装に気を遣い、帽子のつばにまで長さを指定しオーダーメイドをしていたのに、急に髪を坊主にしたり、破れた長靴で出歩いたりすることが出てきたので、
「近頃のカズさん少し変だよ」
と彩が気づいた頃には、無精髭まで生やすようになっていた。
誰かに。
危害を加えたりする訳ではない。
奇怪な行動をとったり、畸声を発したりする訳でもない。
別に。
害を及ぼさないだけ、逆にそれは問題で、何か根深いものであるような、そんな風に吉岡はもちろん、彩や力の目には映ったらしい。
みなみが報せを彩からもらった頃には、すっかり風貌も変わっていた。
もともと鋭かった目がさらに鋭く、何かをいつも睨み回しているような、まるで憑かれたような顔つきをしていたのである。