【完】『ふりさけみれば』
朝。
京都駅は通勤の時間帯の前である。
修学旅行の学生や、外国人のバックパッカーらしき姿がちらほら見えるタクシーの乗り場で一台拾って、北野の白梅町を目指した。
まだ渋滞はなく、スムーズに西大路をタクシーは走る。
やがて。
北野白梅町の駅に着くと、みなみは会計を済ませて降り立った。
そこから椿寺の塀沿いに東へ入り、少し入ったあたりに一慶の住む京町家はある。
歩いた。
普段なら七、八分で着くような一慶の借りていた家まで、みなみはこのときだけは長く、遠く感じられた。
来た。
というか、一慶が玄関先で頂き物のシンビジウムに水を撒いているところへ、みなみがあらわれたのである。
が。
一慶の身なりを見て驚いた。
彩から聞いていたみすぼらしい姿ではなく、いつもの小綺麗なジーンズに真っ赤なパーカーに身を包み、無精髭も見事に剃られてある。