【完】『ふりさけみれば』
みなみは聞くと見るとで大違いな一慶の風体に、言葉を発することが出来なかった。
が。
一慶は、
「みなみ、おはよう」
と、これまた変わらない笑顔である。
「朝は食べたんか?」
「…まだ。さっき着いたばっかりだもん」
「簡単なのでもえぇなら、まぁちょっとは食べてけやな」
「…うん」
みなみは格子戸をくぐった。
一慶の支度は手早いもので、まるでみなみが来るのを何かで知っていたかのように、手際よく目玉焼きとトーストを焼いて、みなみの前に出した。
「ま、男ひとりやからこんなんやけど」
そうやって一慶は切り分けた青リンゴをかじった。
あたかも。
みなみと西陣で何年も暮らしているかのような、何の違和感もない振る舞いである。