【完】『ふりさけみれば』
みなみもつられるように、トーストと目玉焼きを口に運んで、
「…おいしい」
「料理ってレベルではないけど、このぐらいはやらんと餓死してまうよって」
どうやら笑わせようとしたらしいが、そこは朝なのか、或いはまだ胸中に暗闇があるのか、一慶らしくなくキレが悪かった。
食べ終わって二人で食器を洗いながら、
「ねぇ、カズ」
みなみは、
「こないだ彩がね」
と、一連の話題を振ってから、
「何かあったの?」
と訊いた。
一慶は皿を洗いながら少し考え込んでいるような姿勢であったが、
「こないだのみなみの件で、ちょっとな」
と言葉を選んだような言い方をした。
「私の件…?」
「あんなしんどい目に遭っとったって知らんで、ようまぁうちも平然とみなみを抱けたもんやなって」
顔はみなみに向いていなかったが、それが逆に隠さず本心を明かしているように、みなみには見えた。