【完】『ふりさけみれば』
8 さらば西陣
謎をみなみはぶつけてみた。
「どうして?…故郷だよね?」
「まぁ確かにあの町は故郷で、生まれたし育ったし、海も綺麗やし魚もうまいし、嫌いなもんなんかあれへん」
ただし、と一慶はいう。
「もう実家は半分は他人のもんも同然やし、今さら帰ったところで、何か変わる訳でもあらへん。居場所がないなら自分で居場所を探して見つけるより、他はあらへん」
それが大学の頃から住み、慣れ、親しんだ関西であったのであろう。
「せやが、みなみに出逢って、うちのホンマの居場所はみなみのおる場所やって、今は強く思うねん」
どうやら。
一慶には一慶なりの、何かわだかまりのようなものが、きっとあるのかも知れない。
が。
それはみなみには全く分からなかったし、今々知ってどうなるものでもないような、そういう気がしたらしい。
「…それならカズ、一緒に暮らす?」
「みなみさえ良ければ、それがえぇ」
今まで聞いたこともなかった、それがえぇという言い回しに、一慶の決心のような、何やら堅固なものをみなみは感じた。