【完】『ふりさけみれば』
それはとりもなおさず、
「ありとあらゆる話をし尽くして、互いのことを分かっている」
という意味であり、だからこそ通常のカップルなら疾うに破局してしまうであろう事態でも、みなみと一慶は乗り越えて来たのであろう。
それだけの自信があったのかも分からない。
故に。
力も彩も、それまで主張ばかりを述べていたのが、急に大人しくなった。
居丈高に怒鳴る訳でもなく、威圧する訳でもない。
それなのに。
鮮やかなまでにいさかいを止めてしまう説得力が、一慶にはあったようである。
帰宅した一慶は、みなみからの手紙をポストで見つけた。
読み進んで行くと、
「こないだ私と寝るのが怖かったみたいだけど、私はカズが相手なら大丈夫だよ」
という文面があった。
あんなに大人しかったみなみが、こういう話も出来るほど一慶に対し胸襟を開いている。
何となくだが、
(みなみとやったら、多少のことは何とかなるんとちゃうかなぁ)
と、ほろ酔い気味の頭脳にふと浮かんだ。