【完】『ふりさけみれば』
波涛篇
1 新天地
春の改編期が来た。
余所より少し遅れて咲く京都の桜を避けるように横須賀へと一慶が着いたのは、すでに灯点(ひとも)し頃である。
前に。
仕事で何度か関東へ下ったことはあった。
が、暮らしたことはない。
高速道路を使わずにバイクを転がし、途中浜松で一泊したにも関わらず、順調に来られた。
むろん。
一慶にとっては、初めてのみなみとのふたり暮らしでもある。
時計を見た。
みなみとの品川駅での待ち合わせの時間に、まだ間があったので、
「ちょっとあちこち見てみるか」
そうつぶやくと再びスロットルを回し、川崎の方へとドラッグスターを走らせた。